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いろいろと備忘のための

blur『blur』

blur

blur

久しぶりにblurのセルフタイトル・アルバムを聴いてみた。あまりに自分の中で存在がでかいアルバムなので*1、我慢してあまり聴かないようにはしているが(今年初めて聴いた)、やっぱりここに自分のベースがあるなと実感した。
アメリカへのアンビバレントな感情を陰鬱なエッセイ風に綴り、中期ビートルズ風でありかつ90年代的な楽曲にのせる「look inside america」。デーモン・アルバーンの独特なコード進行が活きる「strange news from another star」。この二曲の流れは本当に秀逸で、自分は勝手に「90年代のストロベリーフィールズ/ペニー・レイン」だと思っている。
「death of a party」、「I'm just a killer for your love」などは、アメリカン・ミュージックの剥き出しの楽曲構造のなかに、多様な音楽的情報を詰め込む*2という、後のゴリラズを想起させる楽曲。デーモン・アルバーンはこの時期にデジタル機材による作曲を始めたそうだ。これまで彼の書く曲というのは、独特なコード進行は見られるもののあくまでシンガー・ソングライター的なものだったが、作曲方法の変化により、よりサウンドコンポーザー的な楽曲に向かったように思う。また、このような「アメリカン・ミュージックの剥き出しの楽曲構造」による楽曲はベック、ビースティ・ボーイズホワイト・ストライプスなどに近いといえる。
特に「death of a party」は、どのようにも料理できるジャムセッション的楽曲で、実際、リミックスアルバムではこの曲のリミックスが何曲も入っている。
この音楽の欠点はグルーヴ、身体性の欠如にあるが、そのことがより楽曲の構造を際立たせているようにも思える。ゴリラズの2ndアルバム『Demon Days』などは、身体性の欠如を豪華ゲストで埋め尽くすことでクオリティの向上に成功している。しかし、『blur』に見られるような剥き出しの楽曲構造の(ミニマルな)魅力というのも捨てがたい。
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個人的に、人生で最も感覚が研ぎ澄まされた瞬間というのがある。中3のとき、夏休みの終わりに塾の合宿があって、朝から晩まで集中して勉強した結果(たぶん人生で短期間に最も集中して勉強した経験)、夜中にそのような強烈な感覚がおそってきて、そのときに脳内に流れていたのがこのアルバムだった。もしその頃の自分が宗教というものに自覚的であったら、神の啓示だと思い込んだだろうな多分。人の単純な感覚の鋭さのピークは10代だと思うから、そのような強烈な感覚はもう人生でやってくることはないと思う。けれどこのアルバムをたまーに聴くと、その感覚を、より軽度ではあるが疑似体験することができる。だから、もうこれは嗜好の変化がどうとか、音楽的にどうとか関係なく、聴かないわけにはいかないのである。

*1:ブリットポップ以降ゴリラズ以前の時期のブラーは、世間的には省みられることが少ないけれど…

*2:あるいは、敢えて詰め込まずに余白をとることで、モダナイズする